ゼロから知る農業のリアルな働き方:未経験者が準備すべき労働時間と体力のこと
農業に関心を持つ多くの方が、「自然の中で自由に働ける」「健康的な生活が送れる」といったイメージをお持ちかもしれません。確かにそのような側面もありますが、実際の農業は想像以上に体力を使い、労働時間も栽培する作物や時期によって大きく変動します。特に都市部でのデスクワークなどに慣れている未経験者にとって、農業のリアルな働き方を知ることは、就農後のギャップを減らし、計画的に準備を進める上で非常に重要です。
このコラムでは、農業未経験の方が知っておくべき農業の労働時間や体力について、現実的な視点から詳しく解説します。就農後の生活を具体的にイメージし、必要な準備を始める一助となれば幸いです。
農業の年間を通じた労働時間の特徴
農業の労働時間は、一般的な会社勤めのように年間を通じて一定ではありません。最も大きな特徴は、季節によって大きく変動することです。
- 繁忙期: 種まきや田植え、収穫、出荷の時期は、早朝から日没後まで、休みなく長時間労働となることが一般的です。特に家族経営の場合、猫の手も借りたいほど忙しくなり、年間休日が極端に少なくなる時期もあります。品目にもよりますが、春から秋にかけてが繁忙期となることが多いでしょう。この時期は体力的に最も厳しい時期と言えます。
- 閑散期: 作物の生育期間や収穫後の片付け、次の作付け準備、農機具のメンテナンスなどを行う時期です。比較的労働時間に余裕ができることがありますが、計画通りに進まなかった場合や、冬場の果樹の剪定など、特定の作業で忙しくなることもあります。
このように、農業の労働時間は季節のサイクルに強く影響されます。年間を通じて平均すると一般的な勤め人と同等かそれ以上になることもありますが、特定の時期に労働時間が集中する特性を理解しておく必要があります。
農業における1日の労働時間とスケジュール
1日の労働時間も、季節や天候、作業内容によって日々変わります。しかし、一般的な流れとしては以下のようになります。
- 早朝: 夏場は気温が上がる前に作業を終えるため、夜明け前から作業を開始することがあります。収穫や出荷作業などは、新鮮さを保つために早朝に行うことが多いです。
- 午前中: 畑での作業(耕うん、畝立て、種まき、定植、管理作業など)、選果、出荷準備などが中心となります。
- 午後: 午前中に引き続き畑作業、選果、出荷作業、翌日の準備、事務作業などを行います。夏場は気温が高い時間を避けて休憩を挟むこともあります。
- 夕方以降: 片付け、翌日の準備、機械の手入れなどを行います。必要に応じて夜間に作業を行うこともあります。
もちろん、これはあくまで一例です。栽培する品目(例えば、葉物野菜は早朝収穫・出荷、米は田植え・稲刈りが集中、果樹は剪定や摘果・収穫など)や経営規模(一人で全て行うか、雇用するか)によってスケジュールは大きく異なります。特に未経験から始める場合は、慣れない作業に時間がかかり、想定以上に労働時間が長くなることも少なくありません。
農業に必要な体力と体への負担
農業は体を動かす仕事であり、一定の体力が必要です。一般的な作業には以下のようなものが含まれます。
- 力仕事: 重い資材(肥料袋、収穫コンテナなど)の運搬、農産物の箱詰め、機械の操作などで力を使います。
- 中腰・しゃがみ姿勢: 植え付け、草取り、収穫など、畑での作業の多くは中腰やしゃがみ姿勢で行われます。長時間同じ姿勢を続けることで、腰や膝に負担がかかります。
- 繰り返し作業: 同じ動作を何時間も繰り返す作業(種まき、定植、収穫、選果など)が多く、体の特定の部位に負担がかかりやすいです。
- 天候の影響: 暑い夏の日差しの中での作業、寒い冬の屋外作業、雨の中での作業など、天候に左右される環境で働くため、体調管理が重要になります。
都市部での仕事に慣れている方は、就農前に体力に自信がないと感じるかもしれません。しかし、プロスポーツ選手のような特別な体力が必要なわけではありません。日々の作業を通じて徐々に体が慣れてくる部分も大きいですが、就農前からウォーキングや軽い筋トレなどで基礎体力をつけておくことは、体の負担を軽減し、怪我の予防にもつながります。また、作業方法を工夫したり、負担を軽減する農具や機械を導入したりすることも有効です。
労働時間の効率化・軽減策
長時間労働や体力的な負担は、農業を続ける上での課題となり得ます。しかし、これらの負担を軽減し、効率的に作業を進めるための方法は複数あります。
- スマート農業技術の活用: ドローンによる農薬散布、自動運転トラクター、環境制御システムなど、IT技術を活用することで、省力化や精密な管理が可能になります。初期投資は必要ですが、長期的に見れば労働負担の軽減につながります。
- 機械化の導入: 耕うん機、管理機、収穫機、運搬車など、作業をサポートする機械を導入することで、手作業に比べて大幅に時間や体力を節約できます。
- 作業の見直しと改善: 無駄な動きがないか、より効率的な手順はないかなど、日々の作業を見直すことで、労働時間を短縮できることがあります。
- パート・アルバイトの雇用: 繁忙期だけ人を雇うことで、集中的な労働負担を分散できます。経営規模が大きくなってきたら検討すると良いでしょう。
- 共同での作業: 地域によっては、特定の作業(田植えや稲刈りなど)を共同で行ったり、機械を共有したりする仕組みがあります。
未経験から始める段階では、全ての対策をすぐに実行することは難しいかもしれません。しかし、将来的にどのような方法で労働負担を軽減していきたいかを視野に入れておくことは重要です。
まとめ:リアルな働き方を知って計画的な準備を
農業のリアルな労働時間や体力について理解することは、未経験から就農を目指す上で避けては通れない重要なステップです。想像していたよりも体力的・時間的に厳しい側面があると感じるかもしれませんが、これらは農業という仕事の特性であり、向き合い、対策を講じることで乗り越えられる課題でもあります。
繁忙期と閑散期があること、1日の作業スケジュールが流動的であること、体力的な負担が大きい作業が多いことなどを事前に知っておくことで、就農後のギャップを減らし、心構えや必要な準備(体力作り、資金計画への反映など)を進めることができます。
農業は大変なこともありますが、自然の中で作物を育て収穫する喜び、地域社会との繋がり、そして自らの手で生計を立てるやりがいは、何物にも代えがたいものです。リアルな働き方を知り、しっかりと準備を進めていくことが、農業での成功への第一歩となるでしょう。
就農に関する不安や疑問は、各自治体や農業支援センター、農業法人などが行う就農相談会や研修制度で専門家に相談することも可能です。様々な情報を収集し、ご自身の状況に合った準備を進めてください。