ゼロから比較!未経験者のための農産物販路別戦略:直売、卸売、EC、契約栽培
なぜ農産物販売戦略が未経験者にとって重要なのか
就農を検討されている未経験者の方々にとって、「作る」ことのイメージは湧きやすいかもしれません。しかし、実際に農業を始める上で同じくらい、あるいはそれ以上に重要となるのが「作ったものをどう売るか」、つまり販売戦略です。
農業経営を安定させるためには、質の高い作物を生産する技術だけでなく、それを必要としている消費者や市場に届け、適正な価格で販売する仕組み作りが不可欠です。特に未経験の場合、栽培技術の習得と並行して、どのような販売方法があるのか、それぞれの特徴は何なのかを知り、自身の状況に合った戦略を立てることが、経営の安定や継続に大きく関わってきます。
この章では、主な農産物の販売方法について、それぞれのメリット・デメリットを比較しながら解説します。未経験者の方が、自身の作物や目指す経営スタイルに合わせて、どのように販路を選び、組み合わせていくかを考えるヒントになれば幸いです。
主な農産物の販売方法とその特徴
農産物の販売方法は多岐にわたります。ここでは代表的なものをいくつかご紹介します。
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卸売市場を通じた販売
- 概要: 作物を集出荷場などに出荷し、中央卸売市場や地方卸売市場を通じて卸売業者に販売する方法です。市場で競りや相対取引によって価格が決まります。
- 特徴: 安定した出荷先を確保しやすく、比較的まとまった量を販売できます。価格形成は市場原理に委ねられます。
- 未経験者への向き不向き: 栽培に集中しやすい反面、価格が市場に左右されるため収入が不安定になるリスクがあります。出荷規格を守る必要があります。
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農産物直売所での販売
- 概要: 消費者が直接、生産者から農産物を購入できる店舗(道の駅、JAの直売所など)で販売する方法です。自身で持ち込み、陳列、価格設定を行います。
- 特徴: 消費者の顔が見えるため、反応を直接感じられます。価格を自身で設定できる自由度があります。鮮度の高い状態で販売できます。
- 未経験者への向き不向き: 少量からでも始めやすく、消費者との交流を通じて栽培の励みにもなります。ただし、持ち込みや陳列、売れ残りの管理、他の生産者との差別化などの手間がかかります。
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インターネット販売(ECサイト)
- 概要: 自身のウェブサイト、農産物専門のECモール、フリマアプリなどを利用して消費者に直接販売する方法です。受注から梱包、発送まで自身で行います。
- 特徴: 販売エリアを全国に広げられます。ブランドイメージを作りやすく、ファンを獲得しやすい可能性があります。
- 未経験者への向き不向き: ITスキルや情報発信能力、梱包・物流の知識が必要です。集客やサイト運営の手間がかかりますが、得意な方には有力な販路となります。
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契約栽培・直接取引
- 概要: 特定の飲食店、スーパー、食品加工会社、企業などに、事前に契約した品目や量を直接販売する方法です。学校給食への供給なども含まれます。
- 特徴: 販売価格や量が安定しやすく、計画的な生産が可能です。安定した収入が見込めます。
- 未経験者への向き不向き: 事前に販売先を見つけ、契約を結ぶための営業活動や信頼関係構築が必要です。契約内容に応じた品質や納期の管理が求められます。
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加工販売
- 概要: 自身で生産した農産物をジャム、漬物、ドライフルーツ、ジュースなどに加工して販売する方法です。
- 特徴: 付加価値を高め、通年での販売につなげられる可能性があります。
- 未経験者への向き不向き: 食品加工の知識や設備投資、食品衛生に関する許可などが必要です。販売チャネル(直売所、EC、イベントなど)も別途検討する必要があります。
販売方法のメリット・デメリット比較(未経験者向け)
| 販売方法 | メリット | デメリット | 未経験者へのポイント | | :----------------- | :--------------------------------------------- | :------------------------------------------------------- | :----------------------------------------------------------------------------------- | | 卸売市場 | まとまった量を販売しやすい、出荷の手間が少ない | 価格が市場に左右される、収入が不安定になる可能性 | 大量生産を目指す場合に検討。出荷規格の順守が必須。 | | 農産物直売所 | 少量からでも始めやすい、価格を自分で設定できる | 持ち込み・陳列・売れ残り管理の手間、販売量が読みにくい | 消費者の反応を得やすく、販売の練習にも。地域での人間関係構築にも繋がることがあります。 | | インターネット販売 | 販売エリアが広い、ブランド化しやすい | ITスキルが必要、集客・梱包・発送の手間、物流コスト | ITスキルを活かせる方、特定のターゲット層に販売したい方に適しています。 | | 契約栽培 | 販売価格・量が安定しやすい、収入が計画的になる | 販売先を見つける営業活動が必要、契約順守の責任 | 安定収入を目指す上で有力。事前の営業力や交渉力、信頼関係構築が重要。 | | 加工販売 | 付加価値向上、通年販売の可能性 | 加工知識・設備・許可が必要、新たな販売チャネルの確保が必要 | 栽培と並行して加工まで行うのはハードルが高い。最初は小規模から試すのが現実的です。 |
未経験者におすすめの販売方法と組み合わせ
就農したばかりの未経験者の方が、最初から一つの販売方法に絞り込むのはリスクが伴うことがあります。以下のようなアプローチを検討してみましょう。
- 最初は複数の販路を組み合わせてみる: 例えば、比較的取り組みやすい農産物直売所で消費者ニーズを探りながら、安定した出荷が見込める一部の作物を卸売市場に出荷するなど、複数を組み合わせることでリスクを分散し、それぞれの販売方法の特徴を理解していくことができます。
- 自身のスキルや地域特性を活かす: ITスキルに自信があるならEC販売を試みる、都市部近郊なら直売所や契約栽培(レストラン向けなど)が有利かもしれない、など自身の強みや地域の状況に合わせて優先順位をつけましょう。
- 少量から始め、徐々に拡大する: まずは直売所やECで少量ずつ販売し、経験を積みながら販売量を増やしたり、新たな販路(契約栽培など)に挑戦したりするのが現実的です。
販売戦略を立てる上での注意点
- 市場調査は入念に: どのような作物が、どこで、いくらで売れているのか、地域のニーズは何かを事前にしっかり調査することが重要です。
- 作物の特性との相性: 作物によっては、鮮度が命のため直売所が適している、日持ちするためECに向いているなど、販売方法との相性があります。
- 販売にかかる手間とコストを見積もる: 販売方法ごとに、梱包資材費、送料、手数料、自身の労力(時間)などが異なります。これらを考慮した上で、収益性を見積もりましょう。
- 常に改善を意識する: 販売データ(何がどれだけ売れたか、価格、顧客の反応など)を分析し、販売方法や品揃えを柔軟に見直していくことが大切です。
まとめ
未経験から農業を始める際、栽培技術の習得と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが「作ったものをどう売るか」という販売戦略です。卸売市場、直売所、EC、契約栽培など、様々な販売方法があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
就農初期は、比較的取り組みやすい販路(例: 農産物直売所)から始めつつ、複数の販路を組み合わせることでリスクを分散し、自身の作物や地域、そして自身の強みに合った最適な販売戦略を時間をかけて見つけていくことをおすすめします。
計画的な販売戦略は、農業経営の安定と収入確保のために不可欠です。栽培計画と並行して、どのような販売方法で自身の農産物を届けたいのかを具体的にイメージし、準備を進めていきましょう。