ゼロから備える!気候変動時代の農業リスクと賢い対策
はじめに:気候変動が農業にもたらす影響と未経験者の不安
就農を検討されている未経験者の皆さまにとって、農業は魅力的ながらも未知数の部分が多く、さまざまな不安を抱えていることと思います。中でも、近年ますます顕著になっている「気候変動」は、農業に直接的な影響を与えるため、漠然とした不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
夏場の記録的な猛暑、突然のゲリラ豪雨、長期化する干ばつ、そして予期せぬ寒波。これらの異常気象は、農作物の生育に大きな影響を与え、安定した農業経営を難しくする要因となります。しかし、気候変動のリスクを正しく理解し、適切な対策を講じることで、その影響を最小限に抑え、安定した農業経営を目指すことは可能です。
この記事では、農業未経験者の方に向けて、気候変動が農業にもたらす具体的なリスクを解説し、就農前に知っておくべき「賢い対策」をご紹介します。気候変動を恐れるのではなく、現実として受け止め、適切に備えるための知識を身につけましょう。
気候変動が農業にもたらす具体的なリスク
気候変動は、単に気温が上がるだけでなく、気象パターン全体に変化をもたらし、農業に複合的な影響を与えます。具体的には、以下のようなリスクが考えられます。
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異常気象の増加と激甚化
- 高温・猛暑: 作物の生育障害、品質低下、収量減少を引き起こします。また、作業者の熱中症リスクも高まります。
- 干ばつ: 雨が降らず土壌が乾燥することで、作物が水分不足になり枯れたり、十分に育たなくなったりします。
- 豪雨・長雨: 土壌の流出、作物の根腐れ、病害の発生リスクを高めます。収穫期の長雨は、品質低下や収穫遅延を招きます。
- 台風・強風: 施設(ハウスなど)や作物が物理的な被害を受けます。
- 突発的な寒波・遅霜: 開花期や幼苗期に発生すると、大きな被害をもたらすことがあります。
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病害虫の発生パターンの変化 気候の変化により、これまで発生が見られなかった地域で特定の病害虫が発生したり、発生時期や活動期間が変化したりすることがあります。これにより、従来の病害虫対策が通用しなくなる可能性が出てきます。
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作物の生育・品質への影響 気温や降水量の変化は、作物の生育スピードや品質、収穫量に直接影響します。例えば、高温で作物の花芽分化(花のもとができること)がうまくいかなかったり、果実の色づきが悪くなったりすることがあります。
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農作業の難易度の上昇 異常気象下での作業は、体力的にも精神的にも大きな負担となります。特に夏場の高温下での作業は、熱中症リスクが高く、作業効率も低下します。
これらのリスクは、農業経営の不安定化に直結するため、未経験者の方が就農を考える上で無視できない要素です。しかし、これらのリスクに対して、事前に準備し、就農後も適切に対応していくことは十分可能です。
未経験者が就農前にできる「賢い対策」
気候変動リスクに対して、就農を検討している段階からできる対策はいくつかあります。
1. 情報収集と知識習得を徹底する
気候変動に関する最新の情報や、農業分野でのリスク対応に関する技術情報を積極的に集めましょう。
- 気象情報の活用: 気象庁や農業気象情報を提供しているウェブサイト、アプリなどを活用し、過去の気象データや長期予報、注意報・警報などを日常的に確認する習慣をつけましょう。
- リスク対応技術の学習: 気候変動に適応するための栽培技術(後述)や、病害虫の新しい発生傾向に関する情報などを、研修や専門書、ウェブサイトなどで学びましょう。
2. 気候変動に強い作物・品種を検討する
就農する地域や自身の栽培したい作物について、どのような気候変動リスクが高いかを事前に調査し、それに強いとされる作物や品種を選択肢に入れることも重要です。
- 地域の気候特性を調べる: 就農予定地の過去の気象データや、地域でどのような気候変動の影響が出ているか、地域の農業関係者に話を聞くなどして把握しましょう。
- 耐候性のある品種を選ぶ: 高温に強い、乾燥に強い、湿害に強いといった特性を持つ品種があるか調べ、検討します。
- 多様な作物の組み合わせ: 特定の作物に依存せず、複数の作物を組み合わせることで、気候変動による特定の作物への被害リスクを分散することも有効です。
3. 耐候性のある栽培技術や水管理技術を学ぶ
気候変動に対応できる栽培技術を習得することは、直接的なリスク軽減につながります。
- ハウス栽培・施設栽培: 気温や降水量をある程度コントロールできるため、異常気象の影響を受けにくい栽培方法です。初期投資はかかりますが、リスク低減効果は高いです。
- マルチング: 畑の畝(うね)をポリエチレンシートなどで覆うことで、土壌水分の蒸発抑制(干ばつ対策)や、地温の調整、雑草抑制などの効果が期待できます。
- 適切な水管理: 干ばつ時には効率的な灌水(水をやること)技術、豪雨時には排水対策など、状況に応じた水管理技術は非常に重要です。
- 土壌改良: 有機物を投入するなどして、水はけや水持ちの良い土壌を作ることは、乾燥や湿害への抵抗力を高めます。
4. 自然災害リスクの低い農地を選ぶ
就農地の選定は、長期的なリスク管理において非常に重要です。
- ハザードマップの確認: 就農候補地の洪水、土砂災害、高潮などのハザードマップを必ず確認し、災害リスクの高い場所は避けるか、対策を講じやすい場所を選びましょう。
- 地域の気候・地形特性の調査: 過去にどのような自然災害が発生しやすい地域か、地域の地形が水害や風害に影響しやすいかなどを調べます。
5. 農業保険・共済制度の活用を検討する
気候変動を含む自然災害による収穫量や収入の減少リスクに備える公的な制度です。
- 農業共済制度: 自然災害等による農産物の減収や農業用施設の損壊等の損害を補填する国の制度です。各地域に農業共済組合があり、作物ごとに加入できます。
- 収入保険制度: 自然災害だけでなく、市場価格の低下など、農業者の努力では避けられない様々な要因による収入減少を補填する国の制度です。
これらの制度への加入は必須ではありませんが、万が一の際の経済的なダメージを軽減するための有効な手段です。就農資金計画を立てる際に、保険料の負担も含めて検討することをお勧めします。
6. 地域や専門家とのネットワークを構築する
地域の農業関係者や普及指導員、研究機関などとのつながりは、気候変動への対応において非常に役立ちます。
- 情報交換: 地域での気候変動の影響や、有効な対策に関する生の情報やノウハウを得られます。
- 助け合い: 異常気象による被害が発生した場合など、地域での助け合いが支えになります。
- 専門家のアドバイス: 最新の研究成果や技術指導を受けることで、より効果的な対策を講じることができます。
7. 経営計画にリスク要素を組み込む
事業計画書を作成する際に、気候変動によるリスクを考慮した収入変動の可能性や、対策にかかるコスト(施設投資、保険料など)を盛り込むことで、より現実的でリスクに強い計画になります。
就農後も継続的に取り組むべきこと
就農前にしっかりと準備をしても、気候変動の影響は常に変化します。就農後も、以下の点に継続的に取り組むことが大切です。
- 最新情報のアップデート: 気候変動やそれに対応する新しい技術に関する情報を常に学び続ける姿勢が重要です。
- 栽培技術の改善・応用: 自身の圃場(ほじょう:田畑のこと)の状況やその年の気候に合わせて、栽培方法を柔軟に調整し、改善していく必要があります。
- 地域との連携強化: 地域の気候変動対策の取り組みに参加したり、他の農業者と情報を共有したりすることで、地域全体での対応力を高めることができます。
- 柔軟な計画の見直し: 異常気象による被害を受けた場合などは、迅速に被害状況を把握し、今後の栽培計画や経営計画を見直す必要があります。
まとめ:気候変動リスクを理解し、対策を講じることが安定就農への鍵
気候変動は、今後の農業において避けて通れない課題です。しかし、そのリスクを漠然と恐れるのではなく、具体的にどのような影響があるのかを理解し、この記事でご紹介したような対策を就農前から計画的に講じることで、不安を軽減し、安定した農業経営を目指すことは十分に可能です。
情報収集、適した作物・技術の選択、農地選び、保険加入、そして地域とのつながり。これらの多角的な対策を組み合わせることで、気候変動という不確実な要素に賢く備えることができます。
ゼロから農業を始める皆さまが、気候変動リスクを乗り越え、豊かな農業ライフを実現するための一助となれば幸いです。計画段階からしっかりとリスクを見据え、一歩ずつ着実に準備を進めていきましょう。