ゼロから分かる!自分に合った農業形態と作物の選び方
はじめに:自分らしい農業を見つける第一歩
農業を始めてみたい、という漠然とした思いから、具体的に動き出す際に、多くの方が最初に直面する壁が「どんな農業をすればいいのか」「自分には何が合っているのか」という疑問ではないでしょうか。多種多様な農業形態があり、育てる作物も無数に存在します。
農業未経験の方にとって、これらの選択肢の中から「自分に合った」ものを見つけ出すことは、就農計画の根幹となる非常に重要なステップです。この選択が、その後の経営の安定性や、農業を続けていく上でのやりがいに大きく影響します。
この記事では、農業形態の種類や作物の選び方について、未経験者の視点から分かりやすく解説します。そして、それらをどのように組み合わせて、ご自身にとって最適な農業スタイルを見つけていくか、その具体的な考え方とステップをご紹介します。
農業形態の種類とそれぞれの特徴
農業を始めるにあたって、どのような働き方をするか、つまり「農業形態」を選ぶことは基本中の基本です。主な農業形態には以下のようなものがあります。
1. 家族経営
ご自身や配偶者、お子さんなど、家族を主たる労働力として農業を行う形態です。代々受け継がれてきた農家の場合、この形態が多いですが、新規就農者が家族の協力を得ながら始める場合も含まれます。
- メリット: 経営の自由度が高い、家族間の連携を取りやすい、小規模から始めやすい場合がある
- デメリット: 労働力が限られる、家族の理解と協力が不可欠、経営リスクを家族全体で負う
2. 法人経営(雇用就農)
農業法人と呼ばれる会社などに雇用される形で農業に従事する形態です。会社員として給与を得ながら農業技術や経営ノウハウを学ぶことができます。
- メリット: 給与所得として安定した収入が得られる、経営や技術の研修を受けやすい、社会保険などに加入できる場合が多い、初期投資が不要または少なくて済む
- デメリット: 経営方針や栽培方法の決定権がない、決められた労働時間・内容での勤務となる
3. 個人経営(独立自営)
ご自身単独で農地を借りたり購入したりして、独立して農業経営を行う形態です。
- メリット: 経営の全てを自分で決定できる、やりたい農業を追求しやすい
- デメリット: 全てのリスクを自分で負う、初期投資や経営スキルが必須、販路確保などを全て自分で行う必要がある
未経験者の方が、いきなり大規模な個人経営で始めるのはリスクが高いと言えます。まずは農業法人での雇用就農で経験を積む、あるいは後述する研修制度を活用しながら、小規模な個人経営を目指すといった段階的なアプローチが現実的です。
4. その他の形態
本格的な就農の前に農業に触れてみたい方向けの形態もあります。
- 市民農園・体験農園: 趣味として小規模な区画で野菜などを育てる場所です。農業の楽しさや大変さを知る第一歩になります。
- シェア畑: 複数の利用者で共同で農地や設備を利用する形態です。
作物選びの基本的な考え方
どのような作物を育てるか(作目選択)も、就農計画の非常に重要な要素です。未経験者が作物を選ぶ際には、以下の点を考慮することをおすすめします。
1. 育てやすさ(未経験者向け)
最初は栽培技術の習得に時間がかかるため、比較的病害虫に強く、管理が容易な作物から始めるのが無難です。例えば、葉物野菜(ほうれん草、小松菜など)や、特定の地域で栽培技術が確立されている伝統作物などは、情報も得やすく比較的取り組みやすい場合があります。
2. 市場性・収益性
作った作物がどのように売れるか、どのくらいの収入が見込めるかも重要な判断基準です。地域の市場や消費者のニーズを把握し、安定した販売が見込める作物を選ぶことが、経営の安定に繋がります。付加価値の高い作物や加工品なども選択肢に入りますが、それには相応の技術や販路開拓が必要です。
3. 地域の特性
気候、土壌、水資源などの地域環境はその土地で育てやすい作物に大きく影響します。その地域で古くから栽培されている作物は、地域の環境に適しているだけでなく、栽培技術の情報や既存の販売ルートなども得やすいというメリットがあります。
4. 自身の興味・体力
農業は体力仕事です。ご自身の体力と相談し、無理なく続けられる作物を選びましょう。また、何よりも「育ててみたい」「好きだ」という気持ちは、困難を乗り越える原動力になります。ご自身の興味や情熱も大切にしてください。
5. 栽培規模と種類(少量多品目 vs 大規模単一)
- 少量多品目: 様々な種類の作物を少量ずつ育てる方法です。リスク分散になりますが、それぞれの作物に合わせたきめ細かい管理が必要になります。
- 大規模単一: 特定の作物を大規模に育てます。効率化しやすいですが、病害虫や天候リスクの影響を大きく受ける可能性があります。
未経験者の方は、まずは少量多品目から始めて、様々な作物の栽培を経験し、ご自身の得意なものや地域に適したものを見つけていくという方法も有効です。
自分に合った農業スタイルを見つけるためのステップ
農業形態と作物選び、これらの要素を組み合わせてご自身にとって最適なスタイルを見つけるためには、以下のステップで考えてみましょう。
ステップ1:自己分析を深める
なぜ農業をしたいのか、農業を通じてどのような生活を送りたいのか、まずはご自身の思いや価値観を整理します。合わせて、これまでの職務経験で活かせそうなスキル(経営、IT、営業など)や、ご自身の体力、準備できる資金、家族の理解や協力が得られるかなど、現実的な条件を洗い出します。
ステップ2:徹底的に情報収集を行う
興味を持った農業形態や作物について、インターネットや書籍だけでなく、就農相談窓口、都道府県の農業支援センター、地域の農業法人や農家から積極的に情報を集めます。希望する地域の気候、土壌、栽培されている主要作物、市場の状況なども調べます。
ステップ3:農業形態と作物の組み合わせを検討する
ステップ1の自己分析とステップ2の情報収集の結果を踏まえ、いくつかの農業形態と作物の組み合わせ候補を考えます。それぞれの組み合わせについて、必要な初期投資、年間を通した作業スケジュール、想定される収入、ご自身の体力やスキルで対応可能かなどを具体的にシミュレーションしてみます。この段階では、完璧な数字が出なくても構いません。あくまで可能性を探るイメージです。
ステップ4:相談や研修で検証する
候補がある程度絞れたら、就農相談窓口や経験のある農家、農業研修機関などに相談してみましょう。専門家や経験者の視点からのアドバイスは、机上では気づけなかった重要な視点を与えてくれます。また、農業研修(都道府県や農業法人が実施するものなど)に実際に参加し、候補の作物や形態での作業を体験することで、適性や現実とのギャップを確認できます。
失敗しないための注意点
自分に合った農業スタイルを見つける過程で、特に未経験者の方が注意すべき点をいくつか挙げます。
- 情報過多に注意し、信頼できる情報を選ぶ: インターネット上には様々な情報がありますが、中には古い情報や偏った情報もあります。公的な相談窓口や、実際にその地域で農業を営んでいる方からの情報は信頼性が高い傾向があります。
- 最初から完璧や大規模を目指さない: 未経験からの就農は、学びと経験の連続です。まずは小さな規模で始め、徐々に拡大していく「スモールスタート」を検討しましょう。
- 座学だけでなく、必ず実践経験を積む: 農業は体で覚える側面も大きいです。研修などを通じて、実際に農作業に触れることが非常に重要です。
- 資金計画は現実的に: 初期投資だけでなく、軌道に乗るまでの生活費や経営が安定しない場合の運転資金も考慮に入れる必要があります。希望する形態や作物によって必要資金は大きく異なりますので、具体的に試算しましょう。
まとめ:自分らしい農業への扉を開くために
農業形態と作物の選択は、農業未経験者にとって、就農という新しいキャリアを形作る上での最初の、そして最も重要な決断の一つです。様々な選択肢がある中で迷うのは自然なことです。
この記事でご紹介した考え方やステップが、ご自身に合った農業スタイルを見つけるための一助となれば幸いです。焦らず、ご自身の状況や希望、そして地域の特性をじっくりと考え合わせながら、最適な組み合わせを探してみてください。そして、不安や疑問があれば、一人で抱え込まず、就農相談窓口などの専門家や、地域の先輩農家の方々を頼ることを強くおすすめします。
自分らしい農業を見つけ、就農への扉を開いてください。応援しています。