ゼロから知る兼業農家:未経験者がリスクを抑えながら就農するメリットとステップ
はじめに:未経験者の「兼業農家」という選択肢
農業に関心を持ち、将来的に就農してみたいと考えているものの、「知識も経験もないのに本当にできるのか?」「今の仕事を辞めて収入が不安定になったらどうしよう?」といった不安を抱えている方は多いのではないでしょうか。
特に、安定した会社勤めなどをされている方にとって、生活の基盤を大きく変えることには勇気が必要です。そうした中で、いきなり専業農家を目指すのではなく、「兼業農家」として段階的に農業を始めてみるという選択肢があります。
兼業農家とは、農業以外の仕事を本業や副業として持ちながら農業を行う形態です。未経験から農業を始める方にとって、兼業農家はリスクを抑えながら農業の世界に足を踏み入れる現実的な方法の一つと言えます。
兼業農家として就農するメリット
兼業農家として農業を始めることには、未経験者にとっていくつかの大きなメリットがあります。
経済的リスクを抑えられる
最も大きなメリットは、現職からの収入があるため、農業からの収入が不安定な時期でも生活の基盤を維持できる点です。農業は天候に左右されたり、技術が未熟なうちは思うような収量が得られなかったりすることがあります。そうした場合でも、兼業であれば経済的な不安を軽減できます。初期投資が必要な場合も、無理のない範囲で資金を準備しやすくなります。
段階的に農業を学べる
全くのゼロから専業で農業を始めると、覚えることやこなさなければならない作業量が膨大で、精神的にも肉体的にも負担が大きくなりがちです。兼業であれば、まずは小さな規模や特定の作物から始め、少しずつ農業の知識や技術を習得していくことができます。失敗から学び、次に活かす時間を持ちやすいのも利点です。
地域や農業をじっくり理解できる
いきなり移住して専業農家になると、地域の習慣や農業のやり方に馴染むのに苦労することがあります。兼業であれば、週末だけ地域に通ったり、小さな畑から始めたりするなど、無理のないペースで地域の方々と交流し、その土地ならではの農業について学ぶことができます。地域の特性やご自身の適性を見極める期間を持つことも可能です。
兼業農家として就農するデメリット・課題
一方で、兼業農家という形態にはいくつかのデメリットや課題も存在します。
時間的な制約が大きい
本業の仕事と農業を両立させるため、どうしても自由な時間が限られます。特に、農作業には種まき、植え付け、管理、収穫など、それぞれの時期に集中的な作業が必要となる場合があります。平日の仕事後や週末にまとまった時間を確保する必要がありますし、体力的にも負担がかかる可能性があります。
規模拡大に限界がある
兼業でできる農業の規模には物理的な限界があります。大規模な経営を目指す場合は、いずれ専業に移行することを検討する必要が出てくるかもしれません。また、特定の作物の栽培時期と本業の繁忙期が重なると、対応が難しくなるケースも考えられます。
家族の理解と協力が不可欠
農業は個人の趣味の延長ではなく、農地や設備、そして何よりも時間と労力が必要です。兼業で取り組む場合、家族(配偶者やお子さんなど)の理解と協力なしに進めるのは難しいでしょう。家族が農業にどう関わるか、あるいは関わらないとしても活動を応援してくれるかなど、事前にしっかり話し合うことが重要です。
利用できる制度に制限がある場合がある
就農支援制度や補助金の中には、専業農家を対象としたものや、一定の経営規模や農業所得を条件とするものがあります。兼業農家の場合、すべての制度を利用できるわけではないため、事前にどのような制度が利用可能か確認が必要です。
兼業農家として就農するための具体的なステップ
未経験から兼業農家を目指す場合、どのようなステップで進めれば良いのでしょうか。
ステップ1:情報収集と計画
まずは、なぜ兼業で農業を始めたいのか、どのような農業に興味があるのか、具体的にどんな作物を作ってみたいのかなど、漠然とした関心を掘り下げてみましょう。インターネットや書籍での情報収集はもちろん、農業関連のセミナーや相談会に参加してみるのも有効です。ご自身の現在のライフスタイル(仕事、家族構成、住んでいる場所など)を考慮し、どの程度の時間や資金を農業に充てられるのか、現実的な計画を立てることが重要です。
ステップ2:資金計画
農業を始めるには、農地、農具、資材などで一定の資金が必要です。小さな規模から始める場合でも、種子や肥料、簡単な農具、必要であれば耕うん機などの準備に費用がかかります。自己資金でどこまで賄えるのか、不足分はどのように調達するのか計画します。兼業農家でも利用できる可能性のある支援制度や補助金がないか、情報収集を行いましょう。
ステップ3:農地の確保
兼業で始める場合、まずは家庭菜園よりも少し広い程度の規模から始めるのが現実的です。実家や知人の土地を使わせてもらう、市民農園を利用する、または地域の農地バンクや不動産情報を調べて小さな農地を借りるといった方法が考えられます。農地の確保にあたっては、面積だけでなく、自宅からの距離やアクセスの良さ、水源の有無なども考慮に入れる必要があります。
ステップ4:技術習得
未経験の場合、農業の技術習得は避けて通れません。書籍やインターネットで基礎知識を学ぶことに加え、地域の農業体験プログラムに参加したり、農業塾や研修制度を利用したりするのも良い方法です。最も実践的なのは、地域の農家さんの手伝いをさせてもらうなどして、直接指導を受けることです。兼業の場合、まとまった研修期間を取りにくいこともありますが、週末だけの研修や短期間のプログラムなどを活用しましょう。
ステップ5:栽培開始と販売
確保した農地で、計画に基づき栽培を開始します。まずは育てやすく、かつご自身や家族が消費したり、少量であれば近所や知人に分けたりしやすい作物から始めるのがおすすめです。栽培に慣れてきたら、地域の直売所への出荷や、インターネット販売など、無理のない範囲で販路を検討してみるのも良い経験になります。
ステップ6:継続と改善
農業は計画通りにいかないことも多いです。栽培の過程や収穫・販売の結果を振り返り、何がうまくいき、何がうまくいかなかったのかを分析し、次の作付けや活動に活かしていくことが大切です。兼業のスケジュールの中で、どのように効率的に作業を進めるか工夫を重ねましょう。
兼業農家として成功させるためのポイント
兼業農家として農業を継続し、充実させるためには、いくつかのポイントがあります。
- 家族との合意形成: 家族の理解と協力は継続の重要な鍵です。農業にかける時間や費用について、事前にしっかり話し合い、共通認識を持つようにしましょう。
- 時間管理と優先順位付け: 限られた時間の中で、本業と農業、そしてプライベートのバランスを取るための時間管理能力が求められます。農作業の優先順位をつけ、効率的に作業を進める工夫が必要です。
- 地域との良好な関係構築: 兼業であっても、地域の農業に関わる以上、地域住民の方々との関係は大切です。地域の活動に参加したり、積極的に交流したりすることで、いざという時の助け合いや情報交換がスムーズになります。
- 無理のない規模から始める: 最初から欲張らず、管理できる範囲の小さな規模から始めることが成功の秘訣です。経験を積みながら、少しずつ規模を拡大していくかを検討しましょう。
- 情報収集と学び続ける姿勢: 農業技術や市場の動向は常に変化しています。新しい情報に触れ、学び続ける姿勢を持つことが、より良い農業へとつながります。
- 特定の作物や栽培方法に特化する検討: 限られた時間の中で、効率的に生産・販売を行うために、特定の高付加価値作物や、有機栽培、特別栽培など、ご自身の興味や地域の特性に合った栽培方法に特化することも有効な戦略となり得ます。
まとめ
未経験から農業を始めるにあたり、兼業農家という選択肢は、経済的なリスクを抑え、無理のないペースで農業を学びたいと考える方にとって非常に有効です。もちろん時間的な制約や規模の限界といった課題はありますが、事前のしっかりとした計画、家族の協力、そして段階的なステップを踏むことで、十分に実現可能です。
まずは小さな一歩から、兼業という形で農業の世界に触れてみてはいかがでしょうか。今回の情報が、あなたの「ゼロからのアグリスタート」の参考になれば幸いです。