ゼロから始める農業事業計画書:未経験者が融資や支援に繋げる書き方
農業への新規参入を目指す未経験者にとって、「事業計画書」の作成は、漠然とした夢を具体的な形にするための重要なステップです。特に、就農資金の融資を受けたい場合や、国の補助金・助成金を活用したい場合には、この事業計画書が必要不可欠となります。
「事業計画書なんて難しそう」「どう書けばいいのか全く分からない」と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、事業計画書は単なる書類ではなく、ご自身の就農の考えを整理し、成功への道筋を描くための羅針盤のようなものです。
この記事では、農業未経験者の方が、融資や支援に繋がる事業計画書を作成するための基本的な考え方と、盛り込むべき主要な項目について、分かりやすく解説します。
なぜ農業事業計画書が必要なのでしょうか?
事業計画書を作成することには、主に3つの目的があります。
- 自身の考えを整理するため: 就農にかける思いや目標、具体的な栽培方法、販売戦略、資金計画などを書き出すことで、頭の中でぼんやりしていたイメージが明確になります。「いつまでに何を準備する必要があるか」「想定される課題は何か」など、就農までの道筋や具体的なアクションプランが見えてきます。
- 資金調達や支援制度活用のために: 金融機関から融資を受ける際や、国の新規就農者向けの補助金などを申請する際には、事業計画書の提出が求められます。この計画書は、あなたの事業の実現可能性や返済能力を示す重要な判断材料となります。しっかりとした計画書は、信頼を得る上で非常に有利に働きます。
- 関係者とのコミュニケーションツールとして: 家族や地域住民、農業指導機関の方々など、就農に関わる様々な人にあなたの考えや熱意を伝えるためのツールとなります。計画書を共有することで、理解や協力を得やすくなります。
農業事業計画書に盛り込むべき主要な項目
事業計画書の形式に厳密な決まりはありませんが、一般的には以下の項目を含めると、内容が網羅的で分かりやすくなります。未経験者の方は、特に「なぜ農業を始めたいのか」「これまでの経験をどう活かすのか」「未経験をどう補うのか」といった点を明確にすると良いでしょう。
- 経営理念・目標: なぜ農業を始めたいのか、どのような農業を目指すのかといった、あなたの「農業観」を明確にします。例えば、「安全・安心な野菜を消費者に届けたい」「地域活性化に貢献したい」などです。短期的な目標(例: 3年後の売上目標)と長期的な目標(例: 10年後の経営規模)を設定します。
- 経営者の経歴・経験: あなたのこれまでの社会人経験やスキルを具体的に記載します。農業経験がなくても、例えばITスキル、営業経験、経理知識、コミュニケーション能力などは農業経営にも役立ちます。また、就農に向けた研修受講歴や準備状況(情報収集、相談活動など)も具体的に記載し、熱意と準備の状況を伝えます。
- 栽培品目・経営形態:
何を栽培するのか、どのように農業を行うのかを記載します。
- 栽培品目: なぜその作物を選んだのか(地域の気候、土壌、市場性、自身の興味など)。栽培時期、栽培方法(露地、施設など)。
- 経営形態: 個人経営か、法人化か、家族経営かなど。
- 生産計画: 年間を通して、いつ、何を、どれくらいの面積で、どれくらいの量を生産する計画なのかを具体的に記述します。作付け計画表などを作成すると分かりやすいです。未経験の場合は、最初は小規模から始める計画にするなど、現実的な目標設定が重要です。
- 販売計画:
生産した農産物をどこに、どのように販売するのかを具体的に考えます。
- 販路: 農産物直売所、道の駅、インターネット販売、学校給食、レストランへの卸売、市場出荷など。複数の販路を持つことでリスク分散に繋がります。
- 価格設定: どのように価格を決めるのか、競合と比較してどうか。
- 販売促進: どのように顧客にアピールするか(SNS活用、試食販売など)。
- 資金計画:
就農にかかる費用を算出し、どのように資金を調達するのかを最も具体的に示す部分です。
- 初期投資: 農地取得費または賃借料、農業用機械・施設(トラクター、ハウスなど)の購入費またはリース料、種苗費、肥料費など。具体的な金額をリストアップします。
- 運転資金: 種苗、肥料、燃料費、光熱費、人件費、生活費など、農業経営を継続するために必要な資金。最低でも半年〜1年分を見込んでおくと安心です。
- 資金調達方法: 自己資金、親族からの借入、金融機関からの融資(日本政策金融公庫の青年等就農資金など)、補助金・助成金など。どの制度を、いくら申請するのかを明確にします。
- 返済計画: 融資を受けた場合の具体的な返済計画を立てます。
- 収支計画: 売上、経費、利益について、具体的な数字で予測します。最初の数年間は赤字になる可能性も考慮し、数年後には黒字転換できる計画になっているかを確認します。売上は販売計画に基づき、経費は資金計画の運転資金などを基に算出します。
- リスク分析と対策: 農業には、気候変動による不作、病害虫の発生、市場価格の変動など、様々なリスクがあります。想定されるリスクをリストアップし、それぞれに対する対策を具体的に考えます。例えば、「乾燥対策として灌水チューブを設置する」「複数の販路を確保する」などです。
- 地域との連携: 就農予定の地域住民や先輩農家、農業委員会、普及センターなどとの連携について記載します。地域の行事への参加、情報交換、技術指導を受ける計画などを具体的に書くと、地域に溶け込もうとする姿勢が伝わります。
未経験者が事業計画書を作成する際のポイント
- 正直さと謙虚さ: 未経験であることを正直に伝え、不足している知識や技術はどのように補う計画なのかを具体的に示します(例: 研修参加、先輩農家からの指導)。
- 具体性: 抽象的な表現ではなく、具体的な数字(金額、面積、量、時期など)を盛り込むように心がけます。
- 実現可能性: 理想だけでなく、自身の経験や体力、利用可能な資源を考慮した、現実的な計画を立てることが重要です。
- 相談の活用: 一人で悩まず、地域の農業委員会、普及センター、就農相談窓口、金融機関などに積極的に相談しましょう。専門家からのアドバイスは、計画の精度を高める上で非常に役立ちます。
まとめ
農業未経験者にとっての事業計画書作成は、就農への具体的な第一歩であり、自身の熱意や計画性を対外的に示すための重要なプロセスです。最初は難しく感じるかもしれませんが、この記事で解説した項目を参考に、一つずつ丁寧に取り組んでみてください。
事業計画書を作成する過程で、自身の考えが整理され、新たな課題や必要な準備が見えてくるはずです。そして、しっかりとした計画書は、融資や補助金獲得の可能性を高め、あなたの農業への挑戦を力強く後押ししてくれるでしょう。不安な点は、必ず専門機関に相談しながら進めてください。応援しています。