ゼロから始める就農資金計画の立て方:未経験者が不安を解消する具体的なステップ
農業を始めたいと考えている未経験の方にとって、資金に関する不安は大きいものでしょう。「一体いくら必要なのか?」「どうやって収入を得ていくのか?」「生活していけるのか?」といった疑問や不安は、なかなか解消されにくいものです。
漠然とした不安を具体的な計画に落とし込むことができれば、就農への道のりはぐっと明確になり、前向きに進むための大きな一歩となります。この記事では、未経験の方が就農に向けた資金計画を具体的に立てるためのステップと、収入や支出を試算する際のポイントについて解説します。
就農における資金計画の重要性
資金計画は、単に「いくら必要か」を把握するためだけのものではありません。
- 不安の具体的な解消: 不明瞭な「お金の不安」を、具体的な数字に基づいた計画に変えることで、何を準備すべきか、どんなリスクがあるかが明確になり、不安を軽減できます。
- 現実的な目標設定: 計画を通じて、自分の資金力や調達可能性と、目指す農業経営の規模や内容が現実的かを確認できます。
- 必要な資金の明確化と調達手段の検討: 自己資金で賄える範囲、借り入れが必要な額、活用できる補助金・助成金の可能性などを具体的に把握し、最適な資金調達方法を検討できます。
- 経営の見通し: 収入と支出を予測することで、将来的にどのような経営状態になるのか、生活に必要な資金を確保できるのかといった見通しを立てられます。
未経験者が資金計画を立てる具体的なステップ
資金計画は一度立てたら終わりではなく、情報収集や研修を進める中で見直し、精度を高めていくものです。まずは大まかなイメージからで構いませんので、以下のステップで考えを整理してみましょう。
ステップ1:目指す農業経営の全体像を明確にする
どのような農業で、どのように生計を立てたいのか、具体的なイメージを固めることから始めます。これが資金計画の土台となります。
- 栽培したい作物: 米、野菜(品目)、果樹、花きなど。品目によって必要な設備や労働力、収入の時期などが大きく異なります。
- 経営形態: 個人経営、法人設立、農業法人への就職など。(今回は個人経営を想定して説明します)
- 栽培規模: どのくらいの面積で農業を行うか。最初は小さく始めて徐々に規模を拡大するのか、最初からある程度の規模を目指すのか。
- 販売方法: 農産物直売所、道の駅、JA出荷、市場出荷、契約販売、インターネット販売など。販売方法によって収入の安定性や販売にかかる経費が変わります。
- 年間収入目標: 家族構成や生活スタイルを考慮し、年間でどのくらいの収入が必要か、具体的な目標額を設定します。(ただし、就農当初は収入が少ない、あるいはゼロの期間があることを考慮する必要があります)
ステップ2:就農に必要な初期投資を洗い出す
農業を始めるにあたって、最初に必要となる大きな支出をリストアップします。
- 農地の取得または賃借費用: 農地を購入する場合は大きな費用がかかります。借りる場合でも、保証金や初年度の賃借料が必要です。地域によって相場が大きく異なります。
- 農業用機械・農具の購入費用: トラクター、耕うん機、田植え機、管理機、軽トラック、鎌、鍬など。規模や作物によって必要なものが変わり、中古やレンタルも選択肢に入ります。
- 施設の設置・改修費用: 農業用ハウス、灌水設備、選果場、倉庫、作業場など。特に施設栽培を行う場合は大きな費用がかかります。
- 種苗・肥料・資材費: 最初の作付けに必要な種や苗、肥料、農薬、資材(マルチ、支柱など)の費用です。
- 研修費用: 就農前に農業学校に通ったり、先進農家で研修を受けたりする場合の費用。
- 生活費: 収入が安定するまでの期間(目安として1~3年程度)、生活に必要な資金を貯蓄しておく必要があります。
- その他: 車両購入費(軽トラック以外)、農地までの移動費、通信費、地域への移住費用(引っ越し、住居の準備など)など。
これらの項目について、インターネットや自治体の資料、農業関係者からの情報収集を通じて、概算の金額を調べてみましょう。中古品やレンタル、補助金活用によって初期投資を抑える方法も同時に検討します。
ステップ3:収入計画を立てる
ステップ1で明確にした経営イメージに基づき、将来的な収入を予測します。
- 想定収量: 作物ごとに、栽培面積あたりどれくらいの収穫量が見込めるか。地域の平均的なデータや研修先での情報などを参考にします。未経験の場合は、最初は平均よりも少なく見積もっておくのが安全です。
- 想定単価: 生産した作物がどのくらいの価格で販売できるか。販売先(市場、直売所、契約など)や時期によって変動します。複数の販売先を想定している場合は、それぞれの見込み単価を調べます。
- 売上見込み: 「想定収量 × 想定単価」で計算できます。栽培する作物ごとの売上を合計し、年間の売上目標額を設定します。
- 収入が安定するまでの期間の考慮: 作物によっては収穫まで時間がかかったり、販路が確立するまで時間がかかったりします。就農後すぐには十分な収入が得られない可能性があることを理解し、その間の資金繰りをどうするかを計画に含めます。
ステップ4:経費を試算する
農業経営にかかる年間費用を洗い出します。経費は大きく「変動費」と「固定費」に分けられます。
- 変動費: 生産量や栽培面積に応じて変動する費用。
- 種苗費
- 肥料費
- 農薬費
- 燃料費(トラクターなど農機具や車両用)
- 光熱費
- 出荷資材費(箱、袋など)
- 固定費: 生産量に関わらずほぼ一定にかかる費用。
- 農地賃借料または固定資産税
- 農業保険料・共済掛金
- 減価償却費(農機具や施設の購入費用を複数年で按分したもの)
- 修繕費
- 通信費
- 研修費
- 最も重要な「生活費」
- 借入金の返済額
これらの経費についても、地域の相場や先輩農家の事例、インターネット上の情報などを参考に、項目ごとに概算を試みます。特に生活費は、農業収入から捻出できなければ、事前に準備した貯蓄などで賄う必要があります。
ステップ5:自己資金、借入、補助金を検討する
ステップ2〜4で洗い出した初期投資と年間経費を賄うために、どのような資金をどれだけ準備する必要があるかを検討します。
- 自己資金: ご自身の貯蓄や退職金など、手元にある資金でどこまで賄えるかを確認します。
- 必要な借入額: 総必要資金から自己資金を差し引いた額が、借り入れを検討すべき金額の目安になります。青年等就農資金など、新規就農者向けの低利子融資制度がありますので、情報収集をしっかり行いましょう。金融機関や農業関係機関(JA、日本政策金融公庫など)に相談します。
- 活用できる補助金・助成金: 国や自治体には、新規就農者向けの様々な補助金や助成金制度があります。例えば、就農後の経営開始をサポートする「農業次世代投資事業(経営開始資金)」などがあります。これらの制度は給付要件や申請期間が定められていますので、早めに情報収集し、自身の計画と合致するかを確認します。
自己資金、借入、補助金の組み合わせを検討し、資金調達計画を具体的に立てます。
ステップ6:資金繰り計画を作成する
年間を通じた収入と支出のタイミングを予測し、手元の資金がどのように増減するかを示すのが資金繰り計画です。
農業収入は、作物の収穫時期や販売方法によって入金されるタイミングが異なります。一方で、種苗や肥料の購入、施設の修繕など、まとまった支出が必要になる時期もあります。収入が少ない時期に支出が重なると、手元のお金が足りなくなる(資金ショート)可能性があります。
特に就農当初は収入が不安定なため、数ヶ月単位、できれば月単位で資金の出入りを予測し、「いつ」「いくら」資金が必要になりそうか、「いつ」「いくら」入金がありそうかを具体的に書き出してみましょう。これにより、運転資金として手元に置いておくべき金額や、資金が厳しくなる時期が見えてきます。
ステップ7:計画を検証し、相談する
一通り資金計画を立てたら、その内容を客観的に検証することが重要です。
- 楽観的すぎないか?: 収入予測が高すぎたり、経費予測が低すぎたりしないか確認します。不作や価格下落といったリスクも考慮に入れているか?
- 現実的か?: 目標とする規模や内容は、自身の経験や能力、利用可能な資金で本当に実現可能か?
- 不明点は解消できているか?: 分からない部分はそのままにせず、情報収集や専門家への相談で明確にします。
作成した資金計画を、地域の農業会議、農業改良普及センター、JA、日本政策金融公庫などの相談窓口に持参してアドバイスを求めることを強くお勧めします。専門家のアドバイスを受けることで、計画の精度が高まり、より現実的なものになります。また、資金調達の相談にも乗ってもらえます。
まとめ:計画は就農成功への羅針盤
就農における資金計画は、未経験者の方が抱える漠然とした不安を具体的な道筋に変えるための羅針盤となります。完璧な計画を最初から立てる必要はありません。まずはステップに沿って、現状で把握できる情報をもとに「見える化」することから始めてみてください。
計画を立てる過程で、さらに必要な情報や学ぶべきことが見えてくるはずです。そして、一人で悩まず、様々な相談窓口を活用しながら計画を練り上げていくことが、就農成功への確実な一歩となります。
ぜひこの記事を参考に、あなたの就農に向けた資金計画作成に着手してみてください。具体的な数字と向き合うことで、不安を解消し、自信を持って次のステップに進めるようになるでしょう。