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ゼロから知る就農後のリアル:収入、働き方、地域との暮らし

Tags: 就農後の生活, 農業収入, 働き方, 地域暮らし, 未経験, リアル

就農はゴールではない。その先の「リアルな暮らし」を知る重要性

農業を始めたいと考えたとき、まず頭に浮かぶのは「どうやって就農すればいいのか」「どんな準備が必要か」といったことではないでしょうか。たしかに、就農までの道のりは様々な手続きや情報収集、研修など、やるべきことがたくさんあります。しかし、本当に大切なのは、就農すること自体をゴールとするのではなく、その後の農業での生活や暮らしがどのようなものになるのか、具体的なイメージを持つことです。

特に、農業経験が全くない未経験者の方にとって、都会での会社員生活などとは全く異なる、農業を軸とした暮らしは未知の世界かもしれません。収入の不安定さ、厳しい労働環境、地域社会との新しい関係性など、漠然とした不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。

この記事では、農業未経験から就農した後に待っている「リアル」に焦点を当て、収入、働き方、地域での暮らしについて具体的な情報をお伝えします。就農後のイメージをしっかりと掴むことで、より現実的な準備を進める一助となれば幸いです。

1. 就農後の収入のリアル

収入は不安定になりがちであることを理解する

農業収入は、会社員のように毎月決まった額が振り込まれるわけではありません。作物の生育状況、天候、病害虫の発生、市場価格の変動など、自らの努力だけではコントロールできない多くの要因によって大きく左右されます。これが、就農を考える上で多くの方が不安に感じる最大の点かもしれません。

収入の構造と目安

農業の収入は、基本的に「売上」から「経費」を差し引いたものが農家の手元に残る所得となります。 * 売上: 生産した農産物の販売額です。 * 経費: 種苗、肥料、農薬、燃料費、機械の修繕費、施設の維持費、人件費など、農業経営にかかる様々な費用です。

所得の目安は、経営規模、作物の種類、栽培方法、販路、地域などによって大きく異なります。一概には言えませんが、就農初期は設備投資や技術習得期間でもあるため、所得が低くなる傾向にあります。経営が軌道に乗れば所得も増える可能性がありますが、それでも自然相手の仕事である以上、年によって変動があることは覚悟しておく必要があります。

収入安定化のための取り組み

収入の不安定さを軽減するために、多くの農家が様々な工夫をしています。 * 多角化: 複数の作物を栽培したり、畜産や加工品製造を組み合わせたりすることで、特定の品目のリスクを分散させます。 * 販路の多様化: 市場出荷だけでなく、直売所、道の駅、インターネット販売、飲食店への直接販売、加工業者への販売など、複数の販路を持つことで安定した価格での販売を目指します。 * 契約栽培: 食品メーカーやスーパーなどと事前に価格や数量を決めて契約することで、計画的な生産と安定した収入を得ることができます。 * 加工品の製造・販売: 自分で生産した農産物を加工し、付加価値を高めて販売することで、所得向上を目指します。

これらの取り組みは、すぐに始められるものばかりではありませんが、就農後の目標として、または中長期的な経営戦略として検討することが重要です。

2. 就農後の働き方のリアル

年間を通じた労働の変化

農業には、田植えや収穫期など、特定の時期に作業が集中する「繁忙期」と、比較的作業が少ない「閑散期」があります。栽培する作物によって繁忙期は異なりますが、多くの場合、春から秋にかけての栽培期間は非常に忙しくなります。

労働時間と体力的な負担

農業は体を動かす仕事です。作物の種類や作業内容にもよりますが、畑での作業、重量物の運搬、機械の操作など、体力を使う場面が多くあります。未経験から始める場合、体の慣れが必要になることもあります。

労働時間は、天候や作業の進捗に左右されます。日中だけでなく、日の出前や日没後に作業することもあります。会社員のように定時で終わるという考え方とは異なります。

仕事内容の多様性

農作業と聞くと、畑を耕したり種をまいたりといった作業をイメージするかもしれませんが、実際には多岐にわたります。 * 栽培: 土づくり、種まき、植え付け、水やり、追肥、病害虫対策、草取り、収穫など。 * 販売・流通: 出荷準備、選果、梱包、運搬、顧客対応、営業活動など。 * 経営管理: 帳簿付け、経費管理、経営計画策定、資金繰り、税務処理など。 * 施設・機械管理: 農機具のメンテナンス、修繕、ビニールハウスなどの施設の管理。 * 情報収集・学習: 新しい栽培技術や経営手法の情報収集、研修への参加。

これら全てを一人、あるいは家族だけで行うことも少なくありません。マルチタスクをこなす能力が求められます。

休暇や休息の考え方

農業は生き物を相手にする仕事であり、季節や作物の生育状況に合わせて作業を進める必要があります。そのため、決まった曜日に必ず休めるというわけではありません。お盆や年末年始なども、収穫期と重なれば休めないこともあります。

しかし、体力や集中力を維持するためには休息も不可欠です。計画的に作業を進め、可能な時期にまとめて休みを取る、作業の合間に短い休憩をこまめに入れるなど、自分自身の働き方を工夫することが大切です。また、家族で協力して交替で休みを取るといった方法もあります。

3. 地域社会での暮らしのリアル

地域とのつながりの重要性

多くの場合、就農は地方への移住を伴います。農業は地域に根差した産業であり、地域社会との良好な関係性は、営農だけでなく日々の暮らしにおいても非常に重要です。

移住者としての地域への馴染み方

生まれ育った場所ではない地域に溶け込むには、ある程度の時間と努力が必要です。 * 積極的に地域行事に参加する: 最初は遠慮しがちかもしれませんが、顔と名前を覚えてもらう良い機会です。 * 地域のルールや慣習を尊重する: これまで当たり前と思っていたことが通用しない場合もあります。郷に入っては郷に従う姿勢が大切です。 * 地域のキーパーソンと関係を築く: 地域の役員さんや、古くから住んでいる方、先に移住してきた先輩農家などに相談したり、話を聞いたりすることで、地域を理解する助けになります。 * 無理のない範囲で交流を深める: いきなり全てに参加する必要はありません。できることから始め、少しずつ関係を築いていきましょう。

家族の暮らしも考慮する

単身での就農でない場合、家族が新しい環境に馴染めるかも重要な要素です。 * 子供の学校: 転校先の学校の環境や、友達ができるかといった点は子供にとって大きな変化です。 * 配偶者の仕事や人間関係: 新しい土地で仕事を見つけられるか、地域のコミュニティに溶け込めるかなども話し合う必要があります。 * 買い物、医療、交通手段: 地方では都市部に比べて利便性が低い場合があります。日々の生活に必要な施設やサービスの状況を事前に確認しておくことが大切です。

家族で話し合い、全員が納得して移住・就農できるようなサポート体制を整えることが、その後の安定した暮らしに繋がります。

4. 就農後の不安を和らげるためにできること

就農後のリアルな生活イメージを掴むことで、漠然とした不安は具体的な課題へと変わります。その課題に対して、事前に準備したり、対策を講じたりすることが可能です。

まとめ

農業未経験から就農を目指す道のりは、就農という「スタートライン」に立つまでだけではありません。その後に続く、農業を軸とした日々の「暮らし」こそが、実際に人生をかけて取り組む対象となります。

就農後の収入の変動、体力的に厳しい働き方、新しい地域社会での人間関係など、リアルな側面を知ることは、決して不安を煽るためではなく、むしろ具体的な準備を進め、リスクに備え、後悔のない選択をするために不可欠です。

事前にしっかりと情報収集を行い、先輩農家や地域の声に耳を傾け、家族ともよく話し合うこと。そして、就農相談窓口や研修制度などを活用しながら、一歩ずつ着実に準備を進めることが、農業での充実した暮らしを送るための確かな一歩となるでしょう。リアルを知り、希望を持って、就農後の暮らしを具体的にイメージしてみてください。